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[MIKI] 01: インスタレーションのマーケティング- 生きているから感じられる

ポッドキャストでも激推させてもらってるAppleTV+『Severance(セヴェランス)』についていくつかマーケティング面、テーマ面で語らせてほしい。

For friends,

ポッドキャストでも激推させてもらってるAppleTV+『Severance(セヴェランス)』についていくつか語らせてほしい。今シーズン2真っ最中。

すべてのシーンがアイコニックなのだ!

謎めいた製薬企業「ルーモン産業」は、「セヴェランス」と呼ばれる外科手術を用いて、一部の社員の仕事と私生活の記憶を分離している。「セヴェランス」を受けた社員の一人であるマークは、会社の中と外の両方から、その裏に潜む陰謀を解き明かしていく。

このドラマの好きなところは、世界観が単純に好きなのと、物語とテーマが面白い、コメディでもある。そしてマーケティングとしての施策もピカイチ。

人はコインの裏表のよう、裏を見たらもう戻れない

このドラマのテーマのひとつが、「仕事とプライベートのオンオフ、そして自分らしさの裏と表」。仕事中とプライベートの記憶を切断することで、それぞれ気楽に過ごすことができるのが手術のメリットだと言うが、自我が2人できることでもある。そんな状況が想像できるだろうか?同じ自分だけど、同じ性格ではない自分がそれぞれ生活し、それぞれ何をしているかわからない。もしその別世界の自分に出会ってしまったら、元の自分に戻れるだろうか。もし、別世界の自分がより幸せな自分だったらどうだろう。

もうひとつのテーマは、企業・組織によるコントロール。作中では、”リファイナー”というデータを改良する”ミステリアスで重要な”仕事をしているが、なんのデータを改良しているかは誰も知らない。他に何人の従業員がいて、何をしていて、会社の役員は何を求めているのかわからない。ヘンテコだなあと思うシーンもたくさんあるが、実社会でも所属する会社や代表が達成したいことを理解していない人もいるのも普通だ。

最近のポッドキャストのエピソードでも話した夢の話も同じで、違う世界線の自分を見てしまったら?、占いでラッキーカラーが赤と言われたら?信じていなくても前の自分には戻れない。

インスタレーションのマーケティング:生きているから感じられる

マーケティングの話も少ししたい。二ューヨークのグランドセントラル駅で実際のキャストを使ったインスタレーションを実施。3時間も劇中のメインキャストフル出演で、しかも3時間!も役を演じていた。Severanceの世界観を表すパソコンやデスクなど小道具と、ドラマの世界観がなせる技だと思う。また、演者はファンへの声援は聞こえない。(という設定)それも、ドラマのテーマでもあるオフィスにいる間は外の様子がわからないという世界観も覗き込むファンを巻き込んだアートなのだ。

少し余談だが、最近のマーケティングは、インスタレーション型をよく見かける。フランス人ラッパーのRilèsは、新譜のキャンペーンのために24時間サバイバルランというパフォーマンスアート作品を披露。完走後直後の様子をMVにして公開。(スピード感!)

これまでコンテンツのプロモーションといえば、ポップアップや人が介在していてもリスニングパーティーや試写会のようなものが普通。ここでの話は、MVやドラマの世界観をクリエイターとファンが作り上げることが重要なんだと思った。特に映画やドラマ、音楽など人が前に出ているコンテンツは、生きている。AIの発展やソフトウェアがリーズナブルになってかっこいいグッズは作れるようになったが、その”人”にはリプレイスはいないのだ。過去のCEREAL TALKで私が紹介したとにかくデカい物体が街に設置する!みたいなスペクタクルなマーケティングも、自分より大きなものをみたら物理的な脅威や驚き感じてしまうのも同じではないが近しい訴求方法な気がする。

Appleのパワー、そしてビジネス&コメディ

Severanceはどこを切り取ってもユニーク。映像の取り方から、俳優の喋り方や所作、小道具の細部もこだわりは異常。そして、どれにも意味がある。過去にA24とマーケティングについての記事も書いたけれど、『バービー』や『WICKED』のように大規模なマーケティングや大量のコラボ案件は大型IPじゃない作品やテレビシリーズには難しいし、そこをターゲットにしていない。視聴ターゲットに絞ったマーケティングをすること。

ニューヨークのアップルストアでは、作中で出てくる風船をいっぱいに詰め込んだ店舗ディスプレイに。このドラマを見ているのはAppleユーザーだけ(Android向けにも最近リリースしたが)だからばっちしターゲティングされている。

他にも、前シーズンに続き作中に関連する書籍を実際にAppleから公開したり、ティム・クックを使ったキャンペーンも行ったり、Linkedinも作ってる(A24『ボーはおそれている』以来のLinkedin活用?)

グッズ化はほとんどしていないが、B向け企業とのタイアップが多いのが特徴的。オリジナルポッドキャストでは、Atlassianの組織内での情報共有や共同作業Confluenceが広告主。採用ツールのZipRecruiterもコラボキャンペーンを実施。これ以上に相性のいいビジネス系ドラマのタイアップは後にも他にもない。

ここで他のドラマや映画と何が違うのか、考えたときに圧倒的にマーケティングのやり方がほかとは違う。マス向けのマーケティングもしてもいい気もするがビックテックAppleだから、しにくいのか?Appleユーザーしかみれないというニッチだけど人口の多い矛盾した属性にリーチができる。そもそもAppleTV+のヒット作品は、少ないしNetlixのようにオリジナル以外の作品は見れない。だからこそカルト的ファンを生むのかもしれない。また、ネットフリックスのようにすぐに数話公開するスタイルではないので、考察が盛り上がっている。

”ヒットテレビ番組”に必要な要素ってなんだ?

ここで議論したいのは、一時的にトレンドになることではなく、長期的にヒットするドラマであること。過去でいうと『Friends』や『The Office』、『ブレイキング・バッド』のような長く愛されるドラマ。個人的に今考えているものはこの4つ(他にも絶対ある)

  1. ミーム力の高さ

  2. 若いチームとプロ

  3. ヒーロー的ではないことー人間らしさ

  4. ストリーミングされるプラットフォームとの関係性と終了後にもコンテンツを配給する強いコミュニティまたはプロダクションがいること

1. ミーム力 ✌️

ドラマ『フィラデルフィアは今日も晴れ』の有名ミーム

これは、ドラマを切り取ったときに面白いセリフや顔のリアクションがあることで、あらゆるメディアに露出が高まるため。そして、もう一度聞きたいと思うセリフがあることで繰り返しみてもらえる古典的なシリーズへとなる。

2. 若い人材とプロチーム 💥

若いというのは年齢的な意味ではなくて、プロジェクトとして経験値が浅くプレッシャーがなく新しいことに挑戦できること。Severanceも監督がベン・スティラーというプロであり有名俳優だが、ドラマの監督は初。そして脚本のダン・エリクションも初のプロディース作品だった。そして、当時まだリリースされていない謎(?)のAppleのストリーミングサービスでの公開というプレッシャーが少ない中で挑戦できたことも大きいだろう。また、採用した俳優陣もoffer only(オーディションなしのオファーのみの超有名俳優)で揃えなかったからこそ、今回のインスタレーション企画も実現できたし、今後俳優自身が語りたくなる唯一無二の作品になる。

3. ヒーロー的ではないこと、人間らしさ 🫠

映画でも最近は、圧倒的なヒーロー・いい人は減っているように個人的に感じるが、ドラマの場合長いので、何か問題を持っている、ある意味人間らしさを複雑に表現できているがヒットする傾向にあるような気がする。また、これも感覚的だが、映画の場合、すきな映画そのもので語られることが多い気がするが、ドラマの場合、どのキャラクターが好きか・共感するかという語られ方もよくされる。それはキャラクターを理解するコンテンツの量が多いし、意味するのは個のキャラクターが映画より重要(好きって言いたくなる)だということ。

4. ストリーミングされるプラットフォームとの関係性、終了後にもコンテンツを配給する強いコミュニティまたはプロダクションがいること 📺

『Friends』など番組は結構昔に終わっているものの、TikTokなどでのコンテンツの投稿はずっと続けている。短く切ったときにも面白いポイントがあるシットコムだからこそでもあるが、個人的には、同じトーンや場所が多い、または主要キャストが少数である作品なら同じことができると思う。『Severance』もシットコムではないが、ほぼ場所が変わらないオフィスコメディだし、セットの美学が統一されている。

音楽がいいとか、時期が良かったとか、色々ありそうですが、またちゃんと考えたいトピック…。

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・『ユーフォリア』 Season3ドキドキうまくいくのか???🙃🙃🙃🙃